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賃金等の請求権の消滅時効は延長か現状維持か?検討が続けられる

厚生労働省から、平成30年2月5日に開催された「第2回賃金等請求権の 
消滅時効の在り方に関する検討会」の資料が公表されました。労働基準法 
第115条における賃金等請求権の消滅時効の期間は2年とされていますが、 
平成32年(2020年)4月から、民法の一部改正により、賃金を含む一般 
債権の消滅時効の期間について、複数あった時効の期間が統一され、
「知った時から5年(権利を行使することができる時から10年の間に限 
ります)」とされることになりました。これに伴い、労働基準法に規定 
する賃金等請求権の消滅時効の期間をどうするか?ということで行われ 
ている検討です。


今回の第2回目の検討会では、法曹関係者からのヒアリングなどが
行われました。具体的には、労働者側と使用者側の双方の考え方について
複数の弁護士が意見を述べています。
労働者側は民法に合わせて時効延長、使用者側は現行の労働基準法上の
時効の維持を、それぞれ主張する形になっています。

→ ○ 労働者側に立った意見 ○ 
結論
労働基準法第115条の賃金、災害補償等の請求権について、2年間の
経過で時効消滅するとの規定、及び、労働者災害補償保険法第42条の
療養補償給付や休業補償給付に関する同様の規定は削除し、改正後の
民法を適用すべきである。
【出典 資料3 古川弁護士提出資料より一部抜粋】



→ ○ 使用者側に立った意見 ○ 
労基法は117条以下で罰則規定を置き、賃金(割増賃金)の不払い等
労基法上の労働者の権利の侵害について使用者(これには労働者中の
管理監督者等を含む。10条)に対して刑罰を科すこととしており、
このため労基法等についての基準行政に携わる労働基準監督官は司法
警察職員とされ刑事訴訟法に基づく強力な権限が与えられている。
そして、労働基準監督官は、日常の労働基準行政において、
割増賃金の不払い等の労基法違反行為に対し、それ自体は行政指導で
あって行政処分でないとされるため行政訴訟による不服申立ての対象
外とされる「是正勧告」を発し違反行為の是正を命じることにより速
やかな是正の実現を図っているが、この「是正勧告」によって違反行
為の迅速な是正を図ることができるのは、労基法が刑罰法規であり労
働基準監督官が司法警察職員であるため、「是正勧告」に従わない場
合には刑事手続(検察官送致から刑事裁判・刑罰へとつながる手続)
が想定されることによるからである。
 このような労働基準行政の構造の中で、労基法の時効は、単に民事
上の請求権の行使の時間的限界を画するにとどまらず、労働基準監督
官による労働基準行政の対象事項についての時間的限界、さらには刑
罰法規としての労基法の対象事項の時間的限界の意味を実質的に有し
ているのである。従って、単に民法改正があったからといって、
つまみ食い的に労基法の時効期間を取り出してその変更を検討するの
は失当であり、仮に労基法の時効期間の変更を検討するのであれば、
そもそもの労基法の刑罰法規性の見直し、労基法の刑罰法規性を前提
とした労働基準行政のあり方の見直し等の検討からまず先に行う必要
がある。
(結論)
現行の労基法の時効を変更する必要はない。
【出典 資料4 経営法曹会議提出資料より一部抜粋】



なお、現行の労働基準法第115条では、「賃金(退職手当を除く)、
災害補償その他の請求権は2年」、「退職手当の請求権は5年」の
消滅時効が定められていますが、ここでいう「その他」の請求権には、
年次有給休暇の請求権も含むこととされています。
そのため、年次有給休暇の請求権の時効をどうするか?といった
論点も生じています。

仮に、年休の時効の期間が5年となり、年休が5年前の分まで繰り
越されるとした場合、労働者は、理論上は、最大で1年度に100日の
年休の権利を行使できることが可能となります。100日は極端なケース
ですが、毎年度5日の未消化分がある場合で考えても、「その年度の
年休の日数+20日(5日×4年分)」の年休の権利を行使できること
になり、企業にとって大きな負担になることは想像に難くないでしょう。
もしそうなった場合、年休の消化率が低ければ、退職前にまとめて
年休を消化する期間も長くなることになります。

その他、時効の期間の起算点や書類の保存期間との関係なども
論点となっています。今後も幾度か検討を重ね、
平成30年夏を目途に検討結果の取りまとめが行われることに
なっています。